Epic 2016 (Root'06)

2006年、僕たちはまだ変化のはじまりの中にたたずむ小羊のようだった。
これはそんな頃の僕が描いた2016年のEpic(叙事詩)である。

2003年、僕らがWebに取り込まれる運命となる事件が起こった。Friendsterという小さなSocial Networkの始まりである。

それまで僕らは国籍や学歴、好きな食べ物から思い焦がれる女の子まで、自分が抱えるIdentityはすべて自分の心にしまっていた。もちろん心の安泰や生活のために、たまにはそれらを外に出すこともあったけれど。しかしFriendsterはそんな僕らに少しだけ変化を与えた。それまで就職活動といえば数ある企業の中からお目当ての企業を探しだし、エントリーという作業を行った上で、各企業の採用担当者と面談なんかを繰り返してお互いのIdentity理解につとめてきた。けれどもFriendsterは僕らのIdentityのうち、仕事に関係するものをすべてWeb上に吐き出させて、僕らと企業をマッチングするサービスをはじめたのだった。今思えば、Friendsterの誕生は、小さいけれど、確かな一歩だった。

このEpicを書いた僕が過ごしていた2006年には、Social NetworkはSocial Mediaと呼ばれるようになり、Web2.0なんて言葉がもてはやされていたんだ。このころには英語圏の世界だけでなく日本や韓国(このころはこれらの国はまだ英語圏に含まれていなかった)までもが様々なSocial Mediaを生み出していた。そう、日本じゃmixiやGree、はてななんてのが有名になっていた頃で、Drecomっていう京都生まれの会社がWeb2.0企業として株式公開(IPO)したころだ。(そう、いまではみんなが知ってるDrecomも、このころはあのMicrosoftやGoogleなんかの足下にも及ばない企業だったんだよ)言い換えればこの時代はSocial Mediaの乱立戦国時代だった。あらゆるサービスがSocialだとかWeb2.0だとかいう言葉をキーワードにして、いままでとは違うサービスに生まれ変わろうとしていた。そしてそういったサービスは僕らのIdentityをあらゆる面でWebに吐き出しはじめていたんだ。みんなこの頃は次々に生み出されるサービスを覚えて、それらの名前を知っているかどうかが1つのステータスになっていたっけ。

そんななか、2006年から少しずつ次への進化が始まっていたんだ。あの頃はそんなこと気にもとめていなかったけどね。そう、Social MediaのSocial化さ。彼らはあらゆる場所に散財した僕らのIdentityを集め始めていた。面倒で、多くの抵抗を生み出し、企業間の競争や個人情報保護の制約を受けながらね。個人情報保護?あぁ、あの頃は僕が知って欲しいことも知って欲しくないことも、Webは理解できなかったから、Identityの濫用を防ぐ手だてが必要だったんだ。それが個人情報保護ってやつだよ。ってそんなことはどうでもいいんだ。

Social MediaがSocial化していくなかで、僕らはあのGoogleに吸収されていった。2010年にはGoogleは僕らのことは全て知っていて、スケジュールからさっき書いた日記、次のシーズンに着る予定のシャツまでしっていたよ。Amazonっていう会社と協力して、Googlezonになったのもこの頃さ。彼らは僕らについて知っている全てを総動員して、お勧めの本や店、足りないビタミンまで教えてくれた。

ものすごい便利なサービスだったけど、僕らはだんだん意志をも支配される恐怖感を覚えていった。2006年頃からDrecomを始めとする中小のWeb企業が恐れていた事態が、2014年ころからはますます明確に現実になろうとしていた。人々はみんな体にタグ(昔はRFIDタグって言われてたけど、いまじゃもうタグとしか呼ばれてないあいつさ)を埋込み、全てのIdentityをGoogleに渡していた。多少の情報管理はできたし、知られたくない情報が知れ渡るなんてことは無かったけど、僕らは人間らしさを忘れていた。Web上にあるIdentityが僕らの全てで、僕らはWebにあるIdentityを背負って生きていた。覚えてるよね?まだほんの2年まえのことだもの。

そんななか、2015年のあの事件が起こったってわけさ。Drecomシールの登場さ。Drecomシールは皮膚に自分のIdentityを全て書き込み、それを読み書きするツールだけど、最初はたんなるファッションの一部だった。みんなシールを貼ると見つかる運命の出会いを求めて、チップを外してDrecomシールを貼りだした。半年もするとWeb上のIdentityはすべてみんながどこかに貼ってるDrecomシールに吸収され、昔で言うP2Pっていう技術でリアルに情報をやりとりしだした。もはや昔で言うWebサーバだとかPCはいらなくなって、情報をためるストレージなんて言葉も聞かなくなった。

いま僕らは自分のIdentityも知識も、全ては自分の脳に持っている。ただそれをみんなが読み出せるように、Drecomシールを貼っておくことは忘れないようにしているけどね。

あっ!!
どうやら僕の今年の運命の人が近くにいるみたいだ。じゃぁ、ちょっと行ってくるよ。
Drecomシールに変わってから、実際に足を動かさなきゃいけなくなったのは面倒だよね。もちろん人間らしい生活には必須のことだってのは分かってるけど。







そうそう、1つ言い忘れていたよ。
僕がDrecomに行くことに決めたのも、2006年だったんだ。






と、こんなプレゼンがしたいわけさ。